乳がん検診とは|検診の流れ、検査方法、費用など

女性がかかるがんの第1位として挙げられる、乳がん。胃がんや大腸がんなどとは違い、30歳代や40歳代でも乳がんになる人が増えています。乳がん検診は「子育てや仕事で忙しいから受けない」のではなく、「だからこそ受けたい」がん検診です。

乳がんの状況

乳がんは、男性にも見られることはありますが、圧倒的に女性に多いがんです。国立がん研究センターの統計(国立がん研究センター がん登録・統計 最新がん統計 地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年))によると、2014年の1年間でおよそ76,000人あまりの人が「乳がん」に罹患しているとされています。これは女性のがんの中でもっとも多く、2位の大腸がん(結腸がんおよび直腸がん)に、2014年に罹患した女性がおよそ58,000人弱ですので、1.3倍程度、乳がん患者さんの方が多いということになります。

女性の部位別がん罹患数(2014年)第5位まで
1.国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)をもとに作成
2.「子宮」は、子宮頸部および子宮体部

同じ2014年の統計データによると、乳がんと診断される年齢として、40歳代と60歳代の2つのピークがあることがわかります。50歳代は一時的に少なくなるように見えますが、それでも30歳代よりも多い罹患数であることに変わりはありません。

女性の年齢階級別 乳がん罹患数(2014年)
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)をもとに作成

乳がんの特徴は、罹患する年代が比較的若いところにあります。例えば、日本人でもっともがん患者さんの数が多いのは、2014年では、1位大腸がん、2位胃がん、3位肺がんです。このうち、大腸がんは男女ともに50歳代くらいから、患者数が増えてきます。胃がんや肺がんも同様に、それくらいの年代になると、実際に罹患する患者数が増えてくる傾向にあります。
しかし、乳がんの場合、この傾向が少し変わり、20歳代後半くらいから「乳がん」と診断される患者さんが少しずつ見えはじめ、30歳代になると増え方が大きくなります。そして第一のピークが40歳代となります。

乳房とは、母乳をつくる乳腺、母乳(乳汁)を運ぶ乳管、乳房全体を支える脂肪などでできていますが、乳がんの多くはこの「乳腺」から発生します。乳腺をさらに細かく見ると、乳管と小葉とよばれるごく小さな組織が集まってできています。乳がんの中には、この小葉や乳管、その他の組織からできるものがあります。
男性は元々、乳腺などの組織が非常に小さいですが、「女性化乳房」と呼ばれるように乳腺や脂肪組織などが発達する方がいます。ここからがんになると「男性の乳がん」となりますが、患者数が非常に少ない(女性の乳がんの1%未満程度)のが現状で、乳がんが「女性特有のがん」と呼ばれる理由はここにあります。

初期の乳がんの場合、目立った自覚症状がないことが多いようです。乳がんの症状としては、乳房のしこり、乳房の皮膚の変化(「えくぼ」や皮膚のひきつれができる)、乳房周辺のリンパ節の腫れなどがあります。しかし、これらの症状に気づく前に、乳がん検診などで指摘されるケースもあります。
ご自身で気づく乳がんの症状としては、「乳房のしこり」があります。これは乳房を鏡で見るだけではわからず、乳房にくまなく触れることで気づきます。おおよそ半数の乳がんは、乳房へのセルフチェックで見つかっているようです。
その他、皮膚の変化は鏡を見て、乳房周囲のリンパ節の腫れはセルフチェックや触れた時の痛みなどで気づくことが多いようです。

乳がん検診の対象

乳がん検診の対象

お住まいの自治体などで行われる「がん検診」は、40歳以上や50歳以上が対象となっています。乳がん検診も、40歳以上が対象です。頻度は2年に1回です。かつては、30歳以上は視触診(※1)、50歳以上からマンモグラフィ(※2)の対象となっていましたが、現在は40歳以上から視触診+マンモグラフィを併用することになっています。

指針で定めるがん検診の対象
厚生労働省「がん検診」をもとに作成
*1.ただし一部検査は40歳以上から
*2.ただし、一部検査は1年に1回

がん検診の目的としては、「がんを見つけること」もありますが、「検診によりがんを早期に発見し、適切な治療につなげることで、がんによる死亡数を減らすこと」にあります。乳がんなどの専門家で構成される「がん検診に関する検討会(厚生労働省)」での検討がなされた結果、40歳以上から乳がんの患者数が増えていること、40歳代からの乳がん検診の有効性が確認されたことなどにより、40歳代から乳がん検診にマンモグラフィが加わることになりました。

(※1)視触診:乳房を視て(視診)、触れて(触診)行う診察方法
(※2)マンモグラフィ:乳房専用のエックス線写真を撮影する機器による検査のことで、少ない放射線で乳房だけを映し出す検査です。

乳がん検診の流れ

●検診の方法

乳がん検診の対象年齢になると、お住まいの自治体から「乳がん検診のお知らせ」などが届きます。あるいは、会社の健康診断を受ける際に、対象年齢であればオプションとして申し込むことができる場合もあります。

まずは、手元に届いた「乳がん検診のお知らせ」などに従って、乳がん検診の受診を申し込みます。指定された医療機関で、検診日時を予約します。乳がん検診の場合、問診、視触診、マンモグラフィ検査の3つの検査を受けることになります(詳しくは後述します)。
乳がん検診の流れは一般的に、問診(数分程度)、視触診(数分~10分程度)、マンモグラフィ検査(10~20分程度)ですが、医師からの説明を受けるまでの間や、検査の待ち時間などを考慮すると、受付から検診が終わるまで1~2時間程度となることが多いようです。しかし、当日の混み具合などにより、実際の時間は変わりますので、余裕をもったスケジュールで検診を受けましょう。

一通りの検査が終わると、その結果を元に、医師からの説明があります。ここで何らかの異常を指摘された場合は、マンモグラフィの追加撮影や、乳房への超音波検査などの精密検査を受けます。ここで「がんがある」と判断された場合は、適切な治療を行うことになります。「がんはない」と判断された場合は、2年後の乳がん検診を受けるようにします。

●精密検査

がん検診は健康な人を対象にする、一次的なスクリーニング検査です。何らかの自覚症状がある場合は、がん検診ではなく医療機関を受診しましょう。また、がん検診の結果としての「精密検査」は、二次検査とも呼ばれます。乳がん検診の結果として見つかった「異常」が、本当にがんなのか、がんではなく良性の病変だったのか、詳しく調べる検査です。これにより、早期発見・早期治療につなげていく大事な検査ですので、指摘を受けた場合は精密検査を受けるようにしましょう。

がん検診の流れ

検査方法

それでは、乳がん検診で行う検査について、詳しくお伝えします。

●問診

問診票に、以下のような内容を記述します。

  • 遺伝的な情報(家族や親族に乳がん患者がいたかどうかなど)
  • 月経周期や最終月経
  • 妊娠や分娩の状況
  • 授乳の経歴

遺伝的な情報は、医師が「乳がんの可能性」を知る大事な情報です。乳がんの発生には、遺伝的な要因も関係しているといわれています。ご自身の母や祖母、姉妹や親族などに乳がん患者さんがいるかどうかを記入します。
また、乳がんの発生には、女性ホルモンも影響しているため、妊娠や分娩の状況、授乳の経歴も重要な情報です。さらに、この後にお伝えする「マンモグラフィ検査」では、月経周期によって乳房の状態が変わることがありますので、見えてくる乳房のエックス線写真も変わります。がん検診の結果に影響することがありますので、これもしっかりと申告しましょう。

●視触診

医師が、乳房を視診することで皮膚の変化を観察し、触診することで「しこり」の有無や大きさ、乳房周囲のリンパ節の腫れ、乳頭からの分泌物などについて確認します。

●マンモグラフィ

乳房検査専用のエックス線撮影装置を使って行う検査です。2枚の板で乳房を上下に挟み、エックス線を照射して写真を撮影します。「しこり」などの病変を見つけやすくするために、乳房をできるだけ平たくします。
一般的に、人の指で触れて気付く「しこり」は、直径およそ2cm程度、慣れた人でも1cm程度といわれていますが、マンモグラフィ検査では、それよりも小さい病変を見つけることができます。
ただし、マンモグラフィ検査では、乳房の中の病変を見つけることはできても、それが良性(乳腺症など)なのか、悪性(乳がん)なのかの判断ができないことがあります。この場合は、良性か悪性かを見極めるための精密検査が必要となります。
また、妊娠中や授乳中の方は、女性ホルモンなどの影響により乳房の状態が変化していますし、少ないとはいえ放射線を被ばくすることになります。その時点でのマンモグラフィ検査が必要かどうか、医師と相談して、受けるかどうかを決めましょう。

マンモグラフィと超音波検査

マンモグラフィと超音波検査

「乳がん検診」で行う検査は、マンモグラフィ検査が多くなります。しかし、年代や乳腺の発達の状態などにより、超音波検査のみを行う場合があります。場合によっては、マンモグラフィ検査と超音波検査の両方を行うこともあります。

●マンモグラフィ

メリットとしては、その効果があります。50歳代以上では「死亡率を下げる効果があるとする十分な根拠がある」、40歳代では「死亡率を下げる効果があるとする相応の効果がある」とされています。視触診だけではわかりにくい「しこり」を発見できたり、まだごく小さな乳がんを発見することもあります。さらに、乳腺症など、良性の疾患についても発見できることがあります。

デメリットとしては、少ないながらも「被ばく」することと、マンモグラフィ検査が適さない人がいることです。
放射線被ばくについては、腹部のCT検査や胃のエックス線検査よりも少ないといわれていますが、やはり妊娠中や授乳中の方は、その期間中にマンモグラフィ検査を受けるかどうか、医師とよく相談しましょう。
またマンモグラフィ検査は、乳腺が発達した状態(乳腺密度の高い状態)では、上手く「しこり」などを撮影できません。20歳代、30歳代の方は基本的に、乳腺が発達した状態の方が多いため、マンモグラフィ検査が向かないとされています。
さらに、乳房を板で挟むときの「痛み」があることも、デメリットといえます。

●超音波検査

メリットとしては、検査に際する痛みがないこと、放射線の被ばくがないこと、検査が「向かない」とされる年齢層などがないことが挙げられます。また、「しこり」の内部の状況も確認できるので、その性質もある程度はわかるとされています。

デメリットとしては、乳がんのごく早期の状態である「石灰化」を見つけにくいという点です。年齢層に関係なく検査を受けることはできますが、乳がん検診の目的でもある「一次的なスクリーニング」としては、マンモグラフィ検査よりも、病変を発見しにくい可能性があります。

精密検査の方法

乳がん検診で「精密検査の必要がある」と指摘されたら、乳がんの検査・診断・治療を行う医療機関で、精密検査を受けましょう。精密検査では主に、以下のような検査を行います。

●マンモグラフィ・超音波検査

乳がん検診と同様に、再度マンモグラフィ検査を行うことがあります。また、マンモグラフィではわかりにくい、「しこりの性質」や、「しこりの位置や大きさ」などを、超音波検査で詳しく調べることができます。特に、乳腺が発達した状態の方は、マンモグラフィ検査では見つけられなかった「しこり」などを、超音波検査で発見できることがあります。

●CT検査・MRI検査

患者さんの状況にもよりますが、より詳しく乳がんの状態を調べるために、CT検査やMRI検査を行うことがあります。乳房の中での、がんの大きさや広がり具合がわかります。

●病理検査

病理検査は、乳がんと思われる部位の組織を採取し、顕微鏡により、乳がんの種類や性質、広がりや進み具合などをより詳しく調べる検査です。

乳がん検診の費用

乳がん検診は、多くの自治体が助成を行っており、無料~数千円程度で受けることができます。

乳がん検診の費用については、お住まいの自治体や、加入している健康保険組合などによる助成がありますが、実際の内容はそれぞれによって変わります。多くの場合は、数千円程度ですが、無料クーポンなどを発行している自治体もあります。
なお、無料クーポンが使える日時や医療機関、検査機関などは、お住まいの自治体により異なります。詳しくは、お住まいの自治体の窓口に問い合わせてみましょう。

まとめ

乳がんは、女性特有のがんであり、40歳代での罹患がとても多いがんです。遺伝的な要因や女性ホルモンの働きなどもその発症には関係しているとされており、若い女性でも、他人事ではありません。
一方で、乳がんは早期に発見し適切な治療を行えば、完治が望めるがんの一つでもあります。現在は、切除した乳房の再建術も、保障の対象となるがん保険や医療保険もありますので、ご加入中の保険の内容も確認してみましょう。2年に一度、比較的短時間で終わる乳がん検診を定期的に受け、早期発見につなげましょう。

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