子宮頸がん検診とは|検診の流れ、検査方法、費用など
乳がんとともに、女性特有のがんとして知られる子宮頸がんは、20代や30代の比較的若い女性を中心に増加しています。子宮頚がんの検診とは、どのようなものなのか解説していきます。
子宮頸がんの状況
子宮は、女性の下腹部の中央に位置し、妊娠・出産のために必要とされる臓器です。
子宮は、子宮頸部と子宮体部のふたつの部分にわかれていて、子宮の入口側(膣側)が子宮頸部、その奥が子宮体部です。妊娠中は、子宮体部の中で赤ちゃんが育ちます。
子宮頸がんとは、子宮の入口である子宮頸部の上皮(表面の細胞)に発生するがんです。その原因として、ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)とよばれる、ウイルスへの感染があります。HPVは性交渉で感染するウイルスであり、性体験のある全ての女性に、HPVへの感染、さらには子宮頸がん発症のリスクがあります。
性体験のある女性が、HPVに感染することは稀ではありません。また、HPVに感染したからといって、必ずしもがんを発症するわけではありません。HPVはほとんどの女性が一度は感染するといわれており、そこから一部が、がんを発症するのです。子宮頸がんの患者さんのうち、およそ90%以上がHPVへの感染が確認されているといわれています。
子宮頸がんは、他のがんと比較しても「若い年代から発生しやすいがん」です。子宮頸がんの原因の多くは、前述のとおり「HPVへの感染」と考えられますが、これは性活動が活発な年代である10代~20代で感染し、20代以降に子宮頸がんを発症する人が増えるため、といわれています。実際、子宮頚がんと診断された年齢をみると、10代の後半くらいからの発症が確認されており、20代で急に患者数が増えます。ピークは30歳代後半から40歳代前半にかけてで、それ以降は減少傾向となります。これが、他のがんとは異なる子宮頸がんの特徴です。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成
HPVに感染していても、すぐに「がんになる」わけではありません。子宮頸部の細胞がHPVに感染し続けていることにより、数年間の時間をかけて、その粘膜表面付近に、正常とは違う状態の細胞が発生します。この「正常とは違う細胞」が少なければ、自分自身の免疫機能などにより、いずれ消えてしまうこともあります。この状態を、「前がん状態」や「異形成」といいます。「前がん状態」や「異形成」が進行するとがん細胞となります。
つまり、HPVへの感染が続いている状態が長くなると、子宮頸部の粘膜表面から徐々に細胞が「異常な細胞」となり、そのまま何も治療をしなければ、やがて「がん」となるのです。
- ●子宮頸がんは検診によって死亡率を減らすことができる
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子宮頸がんは、適切な治療を行わない場合は死に至ることもありますが、「前がん状態」といわれる、がんになる前の細胞の段階で早期に発見し、適切な治療を行えば完治も望めるがんです。これを目的として行われる子宮頸がん検診は非常に有効で、がんの進行を防ぎ、死亡率を減らすことができると証明されています。そのため、世界の先進各国では、ほぼ例外なく子宮頸がんの検診が行われています。例えばアメリカでは、2013年の時点で20歳以上の女性の約84%以上が子宮頚がんの検診を受けているというデータがあり、イギリスやオーストリア、スウェーデン、フランス、スイス、ニュージーランド、カナダなどでも、70%以上の受診率であるとされています。一方、日本の場合は、全年齢を通してみても子宮頸がん検診の受診率は低く、2013年の子宮頸がん検診の受診率は、42%程度に留まっています。
子宮頸がんは、早期発見、早期治療をすることで、がんへの転化やがんの進行を抑え、治癒率が高くなります。子宮頸がん検診は、1回受ければ良いのではなく、定期的に受けることが大切です。前述のとおり、子宮頸がんの原因の多くはHPVへの感染ですので、性行為があれば感染の確率は高くなりますし、そのままの状態では「HPVへの感染」が長く続くことになります。
前回の子宮頸がん検診では「陰性(いんせい=がんが「ない」と判断されること)」だったとしても、次の検診までの間に、何らかの変化が起こっている可能性もあるからです。ですので、定期的に子宮頸がん検診を受ければ、過去2年間の変化を捉えることができると考えられます。子宮頸がん検診では一般的に「子宮頸部細胞診(後述します)」を行いますが、過去に行われた研究などにより、「一定の集団の子宮頸がんによる死亡率を減少させる」という検診の目的に合っていることが、科学的に証明されています。
- ●子宮頸がんの統計情報
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それでは、子宮頸がんはどれくらいの人がなり、どの年代で多いのか、みていきましょう。
国立がん研究センターが行っている「全国がん登録・統計」のデータによると、2014年に子宮頸がんと診断された人は、11,293人でした。また、2014年の発生を人口10万人あたりでみると、30歳代前半は21.1人、30歳代後半は30.0人、40歳代前半が30.7人、40歳代後半が26.2人となり、この後は減少傾向になります。全年齢では人口10万人あたり17.3人ですが、10歳代後半から子宮頸がんの発症がみられており、20歳代前半で1.6人、20歳代後半で9.0人へと急に増えています。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成さらに、2017年の統計データから、子宮頸がんで亡くなった人をみると、全年齢合計で2,795人、子宮頸がんによる死亡率は4.4%です。年齢別にみると、85歳以上が一番多いのですが、60歳代がもっとも多く、次いで50歳代、40歳代と続きます。
もう一つの統計データとして、「5年生存率」というものがあります。これは、がんと診断されて治療を行ってから、5年後にどれくらいの患者さんが生存しているか、というものです。このデータからは、子宮頸がんの初期であるⅠ期では92.4%が、Ⅱ期では77.8%が、Ⅲ期では60.8%の方が、5年後も生存している可能性があります。しかし、もっとも進行したⅣ期で発見された場合、5年後も生存している確率は23.9%となります。
この結果からも、子宮頸がん検診を若い時から受けて、がんを早期に発見し、適切な治療をすることの大切さを、わかっていただけたのではないでしょうか。
子宮頸がん(5年生存率)
- 発見時がⅠ期だった場合:92.4%
- 発見時がⅡ期だった場合:77.8%
- 発見時がⅢ期だった場合:60.8%
- 発見時がⅣ期だった場合:23.9%
全症例を合わせると、74.6%というデータがあります。
※対象データは診断年:2005年~2009年の最新5年による
【参考】
国立がん研究センター「がん情報サービス 子宮がん検診の勧め」
国立がん研究センター「がん情報サービス 最新がん統計」
がん検診アセスメント「子宮頸がん 他人事と思わないで!」
厚生労働省「平成30年度がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーン 低い日本の検診受診率」
Health at a Glance 2015 OECD INDICATORS
子宮頸がん検診の対象
- ●子宮頸がん検診の対象年齢と頻度
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子宮頸がん検診の対象年齢は20歳からです。
厚生労働省では、がん検診の種類や対象者に関するガイドラインを作成しています。それを見ても、胃がん、肺がん、大腸がんについては、40歳以上で、年1回もしくは2年に1回の検診を推奨していますが、子宮頸がんに関してのみ、20歳以上で、2年に1回、検診を受けることを推奨しています。
厚生労働省「がん検診」をもとに作成
*1.ただし一部検査は40歳以上から
*2.ただし、一部検査は1年に1回1975年頃は、子宮頸がんになる女性は40代以上が大半で、およそ90%が40歳以上の年齢で占めていました。30歳代後半から40歳代前半にかけて、およそ2倍に増えたというデータがあります。現在でも40歳代以上が大半を占める(87%)ことに変わりありませんが、20歳代から急増しはじめます。2014年に子宮頸がんに罹患している人の数は、20歳代前半がおよそ50人、20歳代後半でおよそ300人、30歳代前半でおよそ800人、30歳代後半でおよそ1,300人となりました。ここまでで全年齢に対しておよそ13%を占めていることになります。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(1975年・2014年)をもとに作成ですから、「まだ若いから」と検診に行かないのではなく、若い年齢の女性こそ、検診を受ける必要があるのです。また、子宮頸がんは初期症状がほとんどありません。特に異常がないからといって検診を受けなければがんを見つけることができず、いつの間にか進行してしまう可能性があります。特に子宮頸がんは、がんになる前の「異形成」と呼ばれる時期が数年あることがわかっていますので、正常とはいえない部分があっても、がんになる前に見つけることができれば、がん化を防ぐことができます。
検診は、妊娠中でも受けることができます。妊婦健診時に子宮頸がん検診を受けて早期に発見できれば、妊娠を継続できる可能性が高くなります。また、がん検診は100%正しいわけではありません。がん検診を受けていても、がんを見逃してしまうというリスクもあります。
誤って「がんはない」と診断されることを「偽陰性」といい、これはどのがん検診でも起こり得ることです。子宮頸部の場合、粘膜表面すべてを採取するわけではありませんし、検査の結果で細胞の変化がごく小さい場合には、やはり見逃しは起こります。
しかし、見逃しが起こってしまった場合でも、定期的に検診を受けることで、その可能性を減らしていくことはできます。検診を受ける頻度に関しては、2年ではなく3年に1回の受診でも有効だとするデータもありますが、子宮頸がん検診を毎回受けていても、「偽陰性」と判断されている可能性もあります。この場合、前回の検診で「見逃しが起こった」ことになりますので、厚生労働省で推奨されている「2年に1回」の検診を受けることで、早めに気づくことができます。
子宮頸がん検診の流れ
- ●検診の方法
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検診の受け方は2通りあります。お住まいの市区町村のがん検診に申し込むか、職場の定期健康診断のオプションなどで、がん検診を受ける方法です。職場によってはがん検診を実施していないこともありますので、その場合は市区町村が行っているがん検診に申し込むことになります。
いずれにしても、多くの場合は市区町村あるいは職場からがん検診の案内が届きますので、検診を受ける医療機関などに予約をとります。地域によっては、自ら情報収集しなければならない場合もありますので、案内が届いていない場合は、お住まいの自治体の窓口に問い合わせてみましょう。がん検診が行われる医療機関などでは、まずは問診・視診・細胞診が行われます。異常が見つからなければ、また2年後の子宮頸がん検診を受診します。
- ●精密検査
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問診・視診・細胞診で何らかの異常が見つかった場合は、精密検査を受けることになります。精密検査の結果、異常がなければ今度は、1年後の検診を受診します。精密検査で異常があった場合、それがどのような状態なのかによって、対応が異なります。
- ●「浸潤がん」と診断された場合
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すぐに適切な治療を受けることになります。
- ●「高度異形成上皮内がん」と診断された場合
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浸潤がんのないことを確認する検査(手術)が必要となります。
- ●「軽度異形成」あるいは「中度異形成」の場合
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主治医の指示に従って、定期的に精密検査を受けることになります。
がん検診は健康な人を対象とする、一次的なスクリーニング検査です。何らかの自覚症状がある場合は、がん検診ではなく医療機関を受診しましょう。また、がん検診の結果としての「精密検査」は、二次検査とも呼ばれます。子宮頸がん検診の結果として見つかった「異常」が、本当にがんなのか、がんではなく良性の変化だったのか、詳しく調べる検査です。これにより、早期発見、早期治療につなげていく大事な検査ですので、指摘を受けた場合は必ず精密検査を受けるようにしましょう。
【参考】
日本医師会「知っておきたいがん検診 がん検診ってどうやってうけるの?」
日本医師会「知っておきたいがん検診 子宮頸がん検診の検査方法」
検査方法
それでは、子宮頸がん検診で行う検査について、詳しくお伝えします。
- ●問診
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問診票に、以下のような内容を記述します。
- 月経周期や最終月経
- 閉経した年齢
- 月経時の痛みの有無や月経血の量
- 妊娠歴や分娩歴
- 性行為経験の有無
- 家族や親族のがん罹患歴
多くの場合、問診票に記述した後で、担当する看護師などの質問に答える形で、実際の「問診」が行われます。その結果を元に、診察室でも、医師からの質問に答えます。
- ●視触診
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膣鏡という診察具を膣内に挿入し、子宮頸部を観察します。その際、おりものの状態や炎症の有無、炎症や出血などの変化があればその大きさや位置などを、医師の目で確認します(目で視て確認することを「視診」といいます)。
- ●細胞診
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細胞診とは、子宮頸部の表面から採取した細胞を、顕微鏡で調べる検査です。細胞の採取は、子宮頸部の粘膜表面を、専用のヘラやブラシのような形状の医療器具でこすり取るようにして行います。
痛みはほとんどなく、短時間で終わります。この受診者の内、約1.4%の人に精密検査が必要となり、さらに精密検査が必要な受診者の中でがんが発見されるのは、そのうちの約1%といわれています。例えば、1万人が子宮頸がん検診を受けると、精密検査が必要となるのはおよそ140人ですが、実際に子宮頸がんになっている人は1人、という計算です。
精密検査の方法
子宮頸がん検診の受診者の中で、精密検査が必要となるのは、約1.4%の人です。精密検査が必要と診断された場合は、必ず検査を受けましょう。
検査の方法は2通りあり、「がんと疑われる場所がどこにあるのか」また「どの程度悪性である可能性があるのか」によって、どちらの方法を取るのかが選択されます。
- ●コルポスコープ
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子宮頚部の粘膜表面を拡大し、細かい部分を観察する検査です。この時に使用する医療機器を「コルポスコープ」と呼びます。
子宮頸部の粘膜表面に、何らかの細胞の変化(組織の変化)があると、肉眼ではわからなくても、コルポスコープを通して拡大することで、見つけることができます。疑わしい部分があれば、その部分の粘膜を採取して、詳しく検査し、その細胞の変化がどの程度進んでいるのか、あるいは悪性かどうかなどを調べることになります。 - ●組織診
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子宮頸部の粘膜表面にある、疑わしい部分から組織(粘膜)を採取し、標本をつくって顕微鏡で診断する方法です。痛みはほとんどありません。まれに出血することもありますが、すぐに止まります。
精密検査の結果を受けて、すぐに治療が必要かどうか、経過観察が必要かどうかを、担当医と相談します。
子宮頸がん検診の費用
子宮頸がん検診は、ほとんどの市区町村で費用の補助が受けられます。その金額は、住んでいる市区町村によって異なりますので、各自治体のホームページや広報誌で確認してみましょう。わからない場合は、自治体に電話で問い合わせてみましょう。ほとんどの場合、無料~2,000円程度となっています。
なお、厚生労働省が中心となり、各自治体では「子宮頸がん検診無料クーポン」を配布しています(2009年から)。子宮頸がん検診の対象となる年齢の方には、この無料クーポンが届くことで、検診のことを知る人も多いかもしれません。無料クーポンと一緒に、子宮頸がん検診のお知らせや、医療機関などの情報も送られてきますので、受診機関を確認し、検診を受けましょう。
一般的な子宮頸がん検診の場合、問診、視診、細胞診を合わせると1時間程度です。ただし、検診を受ける人の数や、その時の込み具合などで、検診機関を出るまでの時間は変わります。余裕を持って、検診日時を予約しましょう。
【参考】
日本医師会「知っておきたいがん検診 がん検診を受けるには」
がん検診アセスメント「子宮頸がん 他人事と思わないで!」
まとめ
子宮頸がんは、若い世代から急速に増えているがんです。仕事や子育てなどで忙しい年代ではありますが、2年に1度は子宮頸がん検診を受けるようにしましょう。数時間程度の検診を受けることで、自分自身の体の状態を知り、早期発見、早期治療につなげていくことができます。
子宮頸がんは、適切な時期に適切な治療を行えば、完治が望めるだけでなく、手術費用や治療にかかる時間の軽減にもなります。