大腸がん検診とは|検診の流れ、検査方法、費用など

大腸がんは、患者数が増加傾向にあるがんで、死亡者数も上位に位置するがんですので、検診の重要性がとても高いがんといえます。特に自治体が行う大腸がん検診は、検査方法は簡便ながら、死亡率を低下させる可能性が高いがん検診です。

大腸がんの状況

大腸は、小腸に続く管状の臓器で、場所によりいくつかの名称があります。小腸との境目にある「盲腸」、盲腸に続き右下腹部から始まる「上行結腸」、腹部を右から左へと流れる「横行結腸」、左のみぞおちあたりから始まる「下行結腸」、左下腹部から始まる「S状結腸」と続き、膀胱の裏側辺りから肛門までの「直腸」へと続き、最後に肛門があります。このうち、上行結腸からS状結腸までを「結腸」とよび、その先の肛門との境目までを「直腸」と呼び、この2つと肛門を併せて「大腸」と呼びます。

腸

大腸の働きは、主に水分を吸収することにあります。口から入った食物や水分は、胃から小腸までの間に、ごく小さな固まりまで分解され、小腸で主な栄養素が吸収されていきます。そこから大腸に入った食物のカスは水分を吸収されます。
水分の吸収が十分でなければ下痢になり、吸収し過ぎると固い便になります。便秘の方の便が固いのは、便が大腸に留まる時間が長くなることで、必要以上に水分が吸収されているためです。

●大腸がんの概要

大腸がんの発生には、大きく2つのパターンがあります。1つは、大腸の内壁(管の内側)にできた良性のポリープががん化するパターン、もう1つは正常な粘膜からがんが発生するパターンです。
いずれの場合も、がんが進行すると、粘膜から大腸壁をつくる筋層へとがん細胞が入り込み、やがてさらに奥へと広がると、お腹の中にがん細胞が散らばったような状態になります。また、大腸の壁をつくる粘膜から筋層には血管やリンパ管もあるため、そこまでがんが入り込むことで、リンパの流れや血流に乗って、がん細胞は全身へと広がっていきます。

●大腸がんのリスク要因

大腸がんのリスク要因としては、喫煙、食生活、遺伝などがあります。喫煙は大腸がんに限らず、多くのがんのリスク要因となります。食生活については「欧米化」にその要因があるといわれています。例えば、牛肉や豚肉などの肉類、ハムやソーセージなどの加工肉類を好んで食べる人は、大腸がんになるリスクが高いとされています。日本人の食生活が魚や野菜が中心だった時期(1960年代頃)に比べると、やはり患者さんの数が増えているためです。人口10万人の患者数で比較すると、2017年の患者数は、1960年頃のおよそ3倍に増えています。遺伝については未だ研究中の部分もありますが、例えば「家族性大腸腺腫症」などの遺伝的な要因を持つ人の近親者には、大腸がんになる人が多いようです。

●大腸がんの症状

大腸がんの症状としては、血便、繰り返す下痢や便秘、便が細くなる、残便感がある、お腹が張る、腹痛、貧血、体重の減少などがあります。自覚症状としてわかりやすいのは血便ですが、ごく初期の頃には目に見える血便にはなりません。大腸がん検診などで検便をして、便に血液が混じっているかどうか(便潜血)を検査して初めて、「血便」がわかることも珍しくありません。定期的に大腸がん検診を受けていると、早期発見の可能性が高くなりますが、定期的な検査を受けていない場合、自覚症状が出てくるころには、ある程度、がんが進行していることもあります。

●統計情報

大腸がんは、患者数、死亡者数ともに、増加傾向にあるがんです。国立がん研究センターの統計(最新がん統計)によると、2017年のがん死亡原因として、大腸がんは男性の3位、女性の1位という結果でした。男性では約27,000人、女性では約23,000人が、この1年の間に大腸がんで亡くなっているという結果になっています。

2017年のがんによる死亡数が多い部位
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/死亡データ(2017年)」をもとに作成

また、2014年に大腸がんと診断された人は、男性が約76,000人、女性が約57,000人でした。男性は胃がんと肺がんに次いで3位、女性は乳がんに次いで2位という結果です。人口10万人あたりでは、男性は124人、女性は88人が、2014年の1年間に大腸がんと診断されたという計算です。

2014年の罹患数が多い部位
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/罹患データ(2014年)」をもとに作成

男女別の部位別がん罹患数(2014年)第5位まで
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成

年齢階級別に大腸がんと診断される人数をみると、男女ともに20歳代後半から100人を超えるくらいになります。さらに40歳代以降では、加齢とともに患者数が増えていきます。男性の方が増加率は高く、40歳代では男性は女性のおよそ1.17倍、60歳代になると男性は女性のおよそ2倍近くまで増えます(60~64歳では、男性9,733人に対し、女性5,547人、65~69歳では男性12,906人、女性6,993人)。

年齢階級別 大腸がん罹患数(2014年)
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成

大腸がん検診の対象

大腸がん検診の対象

●大腸がん検診の対象年齢と頻度

お住まいの自治体などで行われる「がん検診」は、40歳以上や50歳以上が対象となっています。大腸がん検診も、40歳以上が対象となっており、頻度は1年に1回です。

がん検診の目的としては、「がんを見つけること」もありますが、「検診によってがんを早期に発見し、適切な治療につなげることで、がんによる死亡者数を減らすこと」にあります。40歳以上になったら毎年、大腸がん検診を受けましょう。

指針で定めるがん検診の対象
厚生労働省「がん検診」をもとに作成
*1.ただし一部検査は40歳以上から
*2.ただし、一部検査は1年に1回

大腸がん検診の流れ

●検診の方法

大腸がん検診の対象年齢になると、お住まいの自治体や、勤務先の企業が加入している健康保険組合などから「大腸がん検診のお知らせ」が届きます。あるいは、職域の健康診断を受ける際に、対象年齢であればオプションとして申し込むことができる場合もあります。これが難しい場合は、お住まいの自治体が行う大腸がん検診を受けることができますし、対象年齢以外でも大腸がん検診が可能な医療機関であれば、自費にはなりますが受けることができます。

まずは、手元に届いた「大腸がん検診のお知らせ」などに従い、指定された医療機関などに、大腸がん検診の日時を予約します。大腸がん検診の場合、その内容は問診、検便の2つです(詳しくは後述します)。
大腸がん検診を申し込むと、ご自宅に専用の検便の容器や取扱説明書、検診当日に持参する問診票などが届きます。窓口で申し込んだ場合は、手渡しとなることもあります。

大腸がん検診予定日の1週間くらい前には、自宅へ専用の検便容器が届きます。医療機関によっては直接窓口で受け取る場合もあります。検診予定日までの間に2回(可能なら、当日、前日、前々日の3日間のうちから2回)、排便後に検体採取を行います。専用の容器に付属している綿棒のような棒を使い、便の表面をこすり取るようにして採取し、容器の中でしっかりと保管しておきます。
検診当日は、記入した問診票と検体を採取した検便容器を、忘れずに持参しましょう。
なお、検便を行う際に生理中の場合は、正しい結果が出ないことがあります。自治体や検診機関によっては、生理中の検便は提出できないことがありますので、予め確認しておきましょう。

検診当日は、受付を済ませた後、看護師などから問診票の内容についての確認があります。一般的な健康診断のオプションとして大腸がん検診を受ける場合は、最後の「医師からの説明」の際に、大腸がん検診としての「問診」があります。

大腸がん検診の内容としては、問診と検便は必ず行われます。血液検査や身体測定も必要ですが、これらは一般的な健康診断の中にも含まれています。
さらに、希望により大腸内視鏡検査や注腸X線撮影(肛門からバリウムを注腸して、X線撮影を行う検査)や、大腸CT検査を受けられることがあります。大腸がん検診を申し込む際には、これらの検査が受かられるかどうかを確認し、必要に応じて申し込みをしましょう。

●精密検査

がん検診は健康な人を対象にする、一次的なスクリーニング検査です。何らかの自覚症状がある場合は、がん検診ではなく医療機関を受診しましょう。また、がん検診の結果としての「精密検査」は、二次検査とも呼ばれます。
これは、大腸がん検診の結果として見つかった「異常」が、本当にがんなのか、がんではなく良性の病変だったのか、詳しく調べる検査です。精密検査は、大腸がんの早期発見・早期治療につなげていく大事な検査ですので、指摘を受けた場合は精密検査を受けるようにしましょう。

検査方法

それでは、大腸がん検診で行う検査について、詳しくお伝えします。

●問診

問診票に、以下のような内容を記述します。

  • 現在の病状(下痢や便秘、便が細いなどの「便の状態」も含む)
  • 既往歴
  • 家族歴(家族や親族に大腸がんやその他のがんになった人がいるかどうかなど)
  • 過去の検診の受診状況 等

遺伝的な情報は、医師が「大腸がんの可能性」を知る大事な情報です。
大腸がんの場合、家族や親族に「家族性大腸腺腫症(ポリポーシス)」や「リンチ症候群」の人がいる場合は、遺伝的な要素から、大腸がんのリスクが高いとされています。実際に、大腸がんに罹患する人のおよそ3割程度は、これらの遺伝的なリスクを持っていたとされています。

●検便(便潜血検査)

前述のとおり、検診予定日までの間に2回にわたり、自分で検体を採取します。これでわかることは、大腸内部からの出血の有無です。
大腸の内部にがんやポリープなどがあると、わずかながらでも大腸内に出血が見られることがあります。がんやポリープがまだ小さいうちは、便に付着しているのがわかるほどの出血は見られません。しかし、目に見えない出血(便潜血)は起きていることがありますので、それを明らかにする検査です。また、仮に小さな出血があっても、常に出血し続けているわけではありませんので、大腸がん検診を受ける前の2日にわたり、便の表面からの検体を採取する必要があります。また、便潜血検査で「陽性」と判断された場合は、その原因を明らかにする必要があり、精密検査の対象となります。後述する「大腸内視鏡」よりも検査精度は低くなりますが、安全性が高いこと、検診前の検便は必要ですが食事などの制限がなく簡単であること、安価で検査ができることなどから、検診方法としては優れています。

●大腸内視鏡検査

大腸がん検診で行われる可能性のある検査として、大腸内視鏡検査があります。
大腸内視鏡検査は検便(便潜血検査)と比較すると、検査当日までの間に、食事制限があり、検診を受ける人にとっても負担の大きな検査であるため、必須の検査ではありません。しかし、実際に大腸の内部を内視鏡を通じて確認できるため、より詳しく検査を受けたい人、遺伝的要素などの不安がある人は、内視鏡検査を検討してもよいでしょう。
ただし、大腸内視鏡検査には、いくつかの問題点もあります。例えば、内視鏡検査特有の「穿孔(腸に穴が開くこと)」や「出血」というリスクがあります。また、検査を担当する医師にも高度な技術が求められる検査であるため、一度に多くの方に検査を行うことが出来ません。
こうした問題点もあるため、現在のところは自治体が行う住民検診の中では推奨されておらず、基本的には健診センターなどの専門施設で受けることができる検査となります。
なお、大腸がん検診として、検便(便潜血検査)で陽性となった場合に受ける精密検査の中には、大腸内視鏡検査が含まれています。

精密検査の方法

精密検査の方法

大腸がん検診で「精密検査の必要がある」という指摘があったら、大腸がんの検査・診断・治療を行う医療機関で、精密検査を受けましょう。精密検査では主に、以下のような検査を行います。

●大腸内視鏡検査

大腸がんの精密検査の中で、もっとも推奨され、最初に検討される検査です。
肛門から専用の内視鏡を挿入し、直腸、S状結腸、下行結腸、横行結腸、上行結腸から小腸との境目までを、順に観察していきます。この検査でわかることは、大腸の内側の壁にポリープなどの病変がないか、がん化していると思われる部分がないかどうかです。大腸の内側の壁で正常ではないと思われる部分(病変部)は、色素を撒いてより詳しく観察したり、撮影した画像として残ります。必要に応じて粘膜の一部を採取し、病理検査を行います。病理検査では、採取した粘膜が悪性かどうか(がん化しているかどうか)などがわかります。検査時間は、15分から30分程度、大腸内部の状態によっては1時間程度かかることもあります。
大腸内視鏡検査では、検査前日からの食事制限が必要となり、逆に水分は多く取る必要があります。また、前日や当日に下剤を飲み、大腸の中をきれいにしておく必要があります。場合によっては検査前に浣腸を行うこともあります。さらに検査当日には、鎮痙剤(ちんけいざい:痙攣を抑えるお薬)を投与します。

大腸内視鏡検査は、大腸の中を詳細に観察できるため、大腸がんの発見には有効性の高い検査です。一方で、少なからず体への負担があること、内視鏡検査の手技による出血や穿孔の可能性があること、使用する薬剤によるアレルギー反応(比較的軽度のものからショック状態まで)、低血圧、低血糖などを起こす可能性があることなど、いくつかのデメリットもあります。特に高齢の方には、これらの反応が比較的起こりやすいといわれています。検査を選択する前や検査を受ける前には、医師から十分な説明を受けましょう。

●注腸X線検査

肛門から、専用のチューブを挿入し、造影剤(バリウム:白くてドロっとした液体)と空気を注入し、大腸全体のX線写真を数枚撮影する検査です。大腸に、がんやポリープなどの病変部があるかどうかを確認します。病変部は、大腸のどこにあるかわかりません。従って、体の向きを変え、バリウムを大腸全体に行きわたらせながら、さまざまな方向から撮影します。検査の所要時間は、15分~30分程度です。
注腸X線検査も、大腸内視鏡検査と同様、大腸の中をきれいにしておく必要がありますので、前日や当日朝の食事制限や、下剤の服用などがあります。場合によっては検査前に浣腸を行うこともあります。さらに検査当日には、鎮痙剤(ちんけいざい:痙攣を抑えるお薬)を投与します。

注腸X線検査も、大腸のどの部分に正常とはいえない「病変部」があるのかがわかるため、大腸がんの発見のためには有効な検査方法といえます。ただし、この検査にもデメリットはあります。
例えば、バリウムや空気を入れることにより、検査後に一時的に便秘になることがあります。また、X線撮影を行う台を頭低位(とうていい:頭を低くする体勢)にしたり、半立位(はんりつい:頭を高くする体勢)にしたりを繰り返すため、めまいを起こしやすい方は、医師と相談してください。

●検査の注意点

大腸内視鏡検査、注腸X線検査ともに、検査前に鎮痙剤を投与します。しかし、このお薬は心臓や眼、前立腺などに影響を及ぼす可能性があるため、心臓病(狭心症、心房細動など)、緑内障、前立腺肥大などのある方は、鎮痙剤を使用できないことがあります。

大腸がん検診の費用

大腸がん検診は、多くの自治体が助成を行っており、無料~数千円程度で受けることができます。

大腸がん検診の費用については、お住まいの自治体や、加入している健康保険組合などによる助成がありますが、その内容は検査を助成している団体によって変わります。多くの場合は、数千円程度ですが、無料クーポンなどを発行している自治体もあります。
なお、無料クーポンが使える日時や医療機関などは、お住まいの自治体により異なります。詳しくは、お住まいの自治体の窓口に問い合わせてみましょう。

まとめ

大腸がんは、罹患数、死亡者数ともに、増加傾向にあるがんです。特に40歳以降になると、加齢とともに患者数が増え、女性よりも男性に多いという特徴もあります。
大腸がん検診は、基本的には「検便(便潜血検査)」です。検査時間は短く、場合によっては検診当日に問診票と検便を提出するだけで良いこともあります。
他のがん検診と比較しても、体への負担が少ない大腸がん検診を、40歳をすぎたら年に1回は受けるようにしましょう。

人気の記事

  • 2023.8.23保険

    どうする?保険会社からの郵便物

  • 2023.7.14マネー

    話題の新NISA 5つのポイント

  • 2023.7.10暮らし

    「水」について知っておきたい

  • 2023.5.15保険

    保険会社はなんて冷たいんだ!そうならないために、ご確認ください。

  • 2023.5.1保険

    実はよくわからない「保険」と「共済」の違い

  • 2023.4.17保険

    ご存じですか?団信のがん保障のドキッ