胃がん検診とは|検診の流れ、検査方法、費用など
日本人は、「胃がんが多い」といわれています。30年ほど前と比較すると、胃がんの患者数、死亡数はどちらも減少傾向か横ばい程度です。それでも男女計でみると、罹患数第2位、がんによる死因第3位を占めるがんです。
しかし、早期に発見し、早期に治療できれば、その後の生存率が大きく変わるがんでもあります。
胃がんの状況
胃は、大きな袋の上下の入口が狭くなったような形をしている臓器です。主に「食物を一時的に留めておく」という機能と、「食物の消化、吸収、殺菌」という機能があります。胃の断面を見ると、大きくは粘膜、筋層、漿膜(しょうまく)の3つに分かれています。胃の一番内側にある粘膜は、粘膜、粘膜筋板、粘膜下層に分かれます。
胃の構造は、大きく3つの部位に分かれています。食道からつながる噴門部(ふんもんぶ)、いわゆる「胃袋」となる胃体部、胃からその後の十二指腸へとつながる幽門部(ゆうもんぶ)です。
口の中で咀嚼(そしゃく:かみくだくこと)されてある程度小さな固まりとなった食物は、食道を通り抜け、胃体部に溜まっていき、胃の粘膜にある胃腺からは胃液が分泌されます。胃液の中には、食べ物を消化する成分として塩酸と消化酵素、胃液の分泌をコントロールする物質(ガストリン、ヒスタミン、アセチルコリン)などが含まれています。
胃液には、たんぱく質を分解する働きがあり、胃の中の食物をお粥くらいの固さまで溶かしていきます。そして、幽門部の動きをコントロールしながら、少しずつ、ドロドロになった食べ物を送り出していきます。すべての食物を十二指腸に送り出すと、胃は再び空となります。「お腹が空いた」というのは「胃の中に食物がなくなった状態」を表しています。
- ●胃がんの概要
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胃がんとは、胃の粘膜から生じるがんです。胃粘膜の細胞が何らかの理由によりがん細胞となり、細胞分裂を繰り返すことで、胃がん検診でもわかるような大きさに成長してきます。がん細胞は、大きくなるにつれて粘膜層から筋層へと潜り込むような形で浸潤していき、やがて胃の一番外側にある漿膜(しょうまく)に達します。漿膜を超えて大きくなると、胃の周囲にある膵臓や大腸などへ転移していきます。
さらに、胃の周囲には多くのリンパ節やリンパ管、血管がありますので、がん細胞がこれらに入り込むと、リンパや血液の流れにのって、全身へと広がっていきます。 - ●胃がんのリスク要因
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胃がんのリスク要因は喫煙、食生活、そして「ピロリ菌への感染」と考えられています。喫煙は多くのがんのリスク要因です。野菜や果実の摂取量が不足していることや、塩分過多などの食生活も、胃がんのリスク要因です。中でもピロリ菌への感染は、胃がんにとって重要なリスク要因です。
ピロリ菌の感染者は、年代が高くなるほど多くなる傾向があります。かつて、上下水道の整備が不十分だった頃、井戸水からピロリ菌に感染していたと考えられており、現在の60歳代ではおよそ50%、70歳代ではおよそ60%がピロリ菌に感染している、とされています。逆に、現在の30歳代くらいまでの若年層では、感染率は10%以下です。
上下水道が日本国中に整備され、飲料水からの感染はほぼなくなりましたが、親子間での経口感染などにより、わずかではありますが10歳以下の子どもたちでも、感染者がいると考えられています。 - ●統計情報
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国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によると、2017年のがん死亡原因として、胃がんは男性の2位、女性の4位という結果でした。男性では29,745人、女性では15,481人が、この1年の間に胃がんで亡くなっているという結果になっています。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/死亡データ(2017年)」をもとに作成また、2014年に胃がんと診断された人は、男性が86,656人、女性が39,493人でした。男性は1位、女性は、大腸がんに続いて3位という結果です。人口10万人あたりでは、男性は140人、女性は60人が、2014年の1年間に胃がんと診断されたという計算です。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/罹患データ(2014年)」をもとに作成
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成胃がんと診断される人数を年齢階級別にみると、男性は30歳代前半では100人未満ですが、30歳代後半になるとおよそ3倍の300人程度になります。女性は20歳代後半では70人未満ですが、30歳代前半になるとおよそ2倍の140人程度、30歳代後半になると4倍以上の300人程度になります。
しかし、50歳代を超えるくらいになると男性の増加率が高くなり、例えば60歳代前半では、男性9,600人程度に対し女性は3,200人程度となります。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成
【参考】
国立がん研究センター「がん情報サービス 一般の方へ 胃がん」
厚生労働省「ヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用による胃がん減少効果の検証について」
国立がん研究センター「がん登録・統計 最新がん統計」
胃がん検診の対象
- ●胃がん検診の対象年齢と頻度
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胃がん検診は、基本的には50歳以上の方が対象で、2年に1回の頻度となっています。ただし、他のがん検診の対象年齢が一定であるのに対し、胃がん検診は実際に行う検査の方法により、40歳以上で年に1回の受診でも、差支えがないとされています(40歳以上については後述します)。
がん検診の目的としては、「がんを見つけること」もありますが、「検診によりがんを早期に発見し、適切な治療につなげることで、がんによる死亡数を減らすこと」にあります。50歳以上になったら2年に1回は、胃がん検診を受けましょう。
厚生労働省「がん検診」をもとに作成
*1.ただし一部検査は40歳以上から
*2.ただし、一部検査は1年に1回
胃がん検診の流れ
- ●検診の方法
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胃がん検診の対象年齢になると、勤務先企業が加入している健康保険組合、あるいはお住まいの自治体から「胃がん検診のお知らせ」などが届きます。職場での健康診断のオプションとして受けられることがありますが、それが難しいときは、お住まいの自治体が行う胃がん検診を受けましょう。対象年齢に達していなくても、胃がん検診が可能な医療機関であれば、自費で受けることができます。
まずは、手元に届いた「胃がん検診のお知らせ」などに従い、指定された医療機関などで、検診受診日時を予約します。
検診当日は、受付を済ませた後、看護師などから問診票の内容について確認があります。一般的な健康診断のオプションとして胃がん検診を受ける場合は、最後の「医師からの説明」の際に、胃がん検診としての「問診」があります。
胃がん検診の内容としては、問診の他に4つの検査方法がありますが、すべての検査を受けるのではなく、検診施設によって、あるいは自治体や健康保険組合の助成内容によって、実際に受ける検査方法が変わってきます。すべての検査が可能な施設でも、実際に受ける検査の内容を選択できることが多いようです。
胃がん検診で受ける検査には、「胃部X線検査」、「胃内視鏡検査」、「ペプシノゲン検査」、「ヘリコバクター・ピロリ抗体検査」があります。ただしこのうち、「胃がんによる死亡率を下げる」効果が確認されているのは、胃部X線検査と、胃内視鏡検査です。ペプシノゲン検査は胃粘膜の萎縮度を、ヘリコバクター・ピロリ抗体検査ではピロリ菌への感染の有無を検査します。しかし、ペプシノゲン検査とヘリコバクター・ピロリ抗体検査は、「胃がんがあるかどうか」ではなく「胃がんになる可能性が高いかどうか」がわかる検査です。従ってこの2つの検査は、胃部X線検査あるいは胃内視鏡検査にプラスして、今後の胃がん罹患への可能性をみる検査となります。
- ●精密検査
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がん検診は健康な人を対象にする、一次的なスクリーニング検査です。何らかの自覚症状がある場合は、がん検診ではなく医療機関を受診しましょう。また、がん検診の結果としての「精密検査」は、二次検査とも呼ばれます。
これは、胃がん検診の結果として見つかった「異常」について、さらに詳しく調べる検査です。本当にがんなのか、がんではなく良性の病変だったのかを調べ、胃がんの早期発見・早期治療につなげていく大事な検査ですので、指摘を受けた場合は精密検査を受けるようにしましょう。
【参考】
日本対がん協会「胃がん検診について」
日本医師会「知っておきたいがん検診 胃がん検診の検査方法」
国立がん研究センター「中央病院 各がん検診コース」
検査方法
胃がん検診では、50歳以上は2年に1回の胃部X線検査または胃内視鏡検査が推奨されていますが、かつては胃部X線検査のみでした。このため、40歳以上の方は1年に1回の胃部X線検査でも良いとされています。
- ●問診
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問診票に、以下のような内容を記述します。
- 現在の病状(食欲の有無、食後の腹痛などの諸症状の有無)
- 既往歴(胃炎や胃潰瘍の既往歴、ピロリ菌の感染および除菌歴など)
- 家族歴(家族や親族に胃がんやその他のがん、胃炎や胃潰瘍になった人がいるかど うかなど)
- 過去の検診の受診状況 等
この他、女性の場合には妊娠の可能性、授乳中であるかどうかなどを書き込みます。胃がんの場合、遺伝的な情報のほか、過去に胃炎や胃潰瘍などを経験しているかどうかも、「胃がんの可能性」を知る大事な情報です。また、現在の日本人の胃がん患者さんのうち、90%以上が過去にピロリ菌感染によるものといわれています。ピロリ菌に感染してから胃がんになるまでには10年単位での長い時間がかかりますが、胃がん患者のおよそ99%が、ピロリ菌に感染していたという研究データがあります。また、ピロリ菌除菌後でも胃内部に萎縮などの病変がある場合には、やはり胃がんを発症する可能性がありますので、過去のピロリ菌感染歴も胃がんの可能性を知る大事な情報です。
- ●胃部X線検査
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胃がん検診の検査方法のうちの一つが、胃部X線検査です。これは、バリウムと呼ばれる白くてドロっとした造影剤を飲み、胃全体に行きわたらせるように体の向きを変えながら、X線撮影を行い、がんや萎縮した部分があるかどうかを確認する検査です。この検査では、胃体部の全体を観察する必要があるため、撮影用のベッドに乗ったまま、仰向け、横向きなどの体位を取り、さらに撮影用のベッドごと、頭の高さを変えるような体勢を取ることがあります。その上で、さまざまな方向から数枚のX線撮影を行います。検査時間は数分~15分程度です。
胃部X線検査は、胃を空にしておく必要があるため、前日の夜以降の食事制限や、当日朝早く(7時頃など)までの水分制限などがあります。また、バリウムと一緒に発泡剤と呼ばれるお腹を膨らませるお薬も飲みます。
胃部X線検査は、胃のどの部分に「病変部」があるのかがわかりますので、胃がんの発見のためには有効な検査方法といえます。ただし、この検査が適さない方がいます。例えば、過去数年以内に大腸の疾患(腸ねん転や腸閉塞など)による治療を受けた方、心疾患や腎疾患で水分制限のある方、麻痺などにより自分で寝返りがうてない方、めまいを起こしやすい方などです。あるいは、便秘がちな方や、腹部の強い痛みがある方は、胃部X線検査を受ける前に、主治医と十分に相談しましょう。場合によっては「胃内視鏡検査」での胃がん検診となることがあります。なお、胃の手術を受けたことがある方は「胃内視鏡検査」が適応となります。
高血圧や糖尿病、心疾患、脳疾患などのお薬を飲んでいる方は、検査当日のお薬について主治医とよく相談してから、お薬を飲むようにします。 - ●胃内視鏡検査
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胃がん検診で行われる検査のもう一つが、胃の内視鏡検査です。
胃内視鏡検査は、2014年に「胃がんによる死亡を減少させること」が明確となり、2016年頃から胃がん検診の検査項目に取り入れ始めています。食道、胃、十二指腸までを、直径1cm程度の細い管状のカメラで観察しながら、胃内の病変部の有無を確認していく検査です。検査時間は数分~15分程度です。胃内視鏡検査も胃部X線検査と同様、前日からの食事制限や、当日朝からの水分制限などがあります。また、内視鏡検査特有の「穿孔(腸に穴が開くこと)」や「出血」というリスク(確率は0.007%)がある検査でもあります。さらに、稀ではありますが、検査前に使用するお薬へのアレルギー反応や、アレルギーによるショック症状がみられることがあります。
しかし、胃部X線検査が適さない方でも受けることができる検査でもあり、ごく小さな病変であれば、胃内視鏡検査をしながら組織を一部切除して、より詳細な検査を行うこともできるため、胃がんの早期発見につながる検査です。
また、胃内視鏡には、口から挿入するものと、鼻から挿入するものがあります。健診センターなどの専門施設では、どちらかの方法を選択することができる場合があります。
なお、胃がん検診後の精密検査の中には、胃内視鏡検査が含まれています。
【参考】
東京都がん検診センター「胃内視鏡検査を受けられる方へ」
国立がん研究センター「がん情報サービス がん検診について」
国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ「JPHC Study」
精密検査の方法
胃がん検診で「精密検査の必要がある」という指摘を受けたら、胃がんの検査・診断・治療を行う医療機関で、精密検査を受けましょう。
胃がん検診で胃部X線検査を受けた方のうち、およそ10%の方が「精密検査が必要」と判定されるといわれています。精密検査の方法としては、再び胃部X線検査を受けることもありますが、現在は多くの場合で胃内視鏡検査が行われます。
- ●検査の注意点
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胃内視鏡検査、胃部X線検査ともに、検査前に鎮痙剤(ちんけいざい:痙攣を抑えるお薬)を投与します。しかし、このお薬は心臓や眼、前立腺などに影響を及ぼす可能性があるため、心臓病(狭心症、心房細動など)、緑内障、前立腺肥大などのある方は、鎮痙剤を使用できないことがあります。
また、特に胃内視鏡検査では、内視鏡によるゼリー状またはスプレー状の麻酔薬を使用します。また、食道の状態を観察するために、色素やヨードを使用することもあります。薬剤アレルギーのある方は、十分に留意する必要がありますので、検査を受ける前に必ず申告するようにしましょう。
【参考】
東京都がん検診センター「胃内視鏡検査を受けられる方へ」
国立がん研究センター「がん情報サービス がん検診について」
胃がん検診の費用
胃がん検診は、多くの自治体が助成を行っており、その費用は無料~数千円程度です。
胃がん検診の費用については、お住まいの自治体や、加入している健康保険組合などによる助成がありますが、その内容は検査を助成している団体によって変わります。また、検査方法によっても実際に負担する費用が変わりますので、これらも比較しながら、検査方法を選択すると良いでしょう。
まとめ
胃がんは、女性よりも男性の患者さんの方が多く、死亡者数も、男性は女性のおよそ倍です。特に40歳以降になると、加齢とともに患者数が増え、50歳を過ぎると患者数がとても増えるがんです。
しかし、胃がん検診で胃がんを早期に発見し、適切な治療を行うことで、治癒(ちゆ:病気が治ること)を目指せるがんでもあります。
日本でもっとも古くから行われている胃がん検診ですが、現在は検査方法も自分で選択することができます。50歳を過ぎたら2年に1回(胃X部線検査は40歳以上で年1回でも可)は胃がん検診を受け、早期発見、早期治療に努めましょう。