肺がん検診とは|検診の流れ、検査方法、費用など

肺がんは2017年、日本のがんによる死亡原因の1位に位置しています。
これに対して、自治体や各医療機関の連携によって行われている肺がん検診は、受診することによって死亡リスクを減少させることが科学的に証明されている、有効性の高い検診です。

肺がんの状況

肺は胸の大部分を占め、左右に1つずつある臓器です。左右ともに肺葉と呼ばれる部分に分かれており、右肺が3つ(上葉、中葉、下葉)、左肺が2つ(上葉、下葉)の計5つに分かれます。
肺の内部には、木の枝のように気管支が広がっていて、その先に肺胞があります。肺胞では、呼吸によって運ばれた酸素を血液内に取り込むと同時に、全身の細胞から集められた二酸化炭素を血液中から肺胞へと排出します。肺胞に排出された血液中の二酸化炭素は、呼吸によって気管支から咽頭(いんとう=のど)や鼻腔(びくう=鼻)を通って、大気中へ吐き出されています。このように肺は、大気中の酸素を取り込んで全身へ送り、二酸化炭素を排出するという、人が生きる上でとても重要な役割を担っている臓器です。

肺の構造
日本医師会「知っておきたいがん検診|肺がん検診 肺がんとは?」をもとに作成

●肺がんの概要

気管支や肺胞の細胞が、正常な細胞から変異して、がん化したものが肺がんです。さらに、がんが進行すると、がん細胞は周囲の細胞へと浸潤しながら増殖していきます。がん細胞が血管やリンパ管に入り込むと、血液やリンパ液の流れに乗り、全身へと広がっていきます。これが転移です。
肺がんが転移しやすいのは、脳、肝臓、副腎、骨ですが、肺周囲のリンパ節にも転移が起こりやすいとされています。

肺がんになるとさまざまな症状が見られるようになりますが、初期の頃は目立った自覚症状はありません。進行してくると、咳や痰、血痰(たんに血液がまじったもの)などが見られるようになり、呼吸困難や胸痛といった、呼吸器に特有な症状が見られるようになります。また、発熱が見られることもあります。しかし、これらは肺がん特有の症状ではなく、呼吸器に何らかの病気があると少なからずみられる症状でもあるため、症状から肺がんかどうかを判断することは難しいという面があります。

肺がん患者さんに比較的多くみられる症状として、「腫瘍随伴症候群(しゅようずいはんしょうこうぐん)」と呼ばれるものがあります。具体的には、食欲不振、肥満やムーンフェイス、神経症状および意識障害などがあります。腫瘍随伴症候群は、他のがんでも見られる症状ではありますが、他のがんよりも肺がんでは多く発症する傾向にあるとされています。

●肺がんのリスク要因

肺がんのリスク要因として真っ先に上がるのは、喫煙です。タバコには、発がん性のある有害物質が多数含まれており、喫煙によりこの有害物質を多く含んだ煙を、空気とともに肺の奥深くまで吸い込んでしまいます。肺がんの場合、喫煙などによる有害物質の吸収を繰り返すことで、気管支や肺胞の中に「正常ではない細胞」が増え、やがて肺がんを発症することになります。もちろん、それ以外にも肺がんになるリスク要因はありますが、もっともリスクが高いとされるのが、喫煙習慣です。肺がん検診の検査項目として「喀痰(かくたん)細胞診」があります(詳しくは後述します)が、これは受診者全員が対象ではなく、肺がんリスクが高い人が対象となります。喫煙本数が多く、喫煙期間の長い人が「肺がんリスクの高い人」となります。

喫煙により肺がんになるリスクは、喫煙しない人に比べて、5~20倍になるといわれています。また、受動喫煙(じゅどうきつえん=自分では喫煙しないが、他人のタバコからの副流煙を吸い込んでしまうこと)でも肺がんのリスクは高くなるとされており、そのリスクは1.2倍~2倍になると考えられています。

●統計情報

国立がん研究センターの報告(最新がん統計)によると、2017年にがんで死亡した人は男性220,398人、女性152,936人、計373,334人となっています。
このうち肺がんで死亡した人の数は、男性53,002人で部位別の死亡者数1位、女性は21,118人で部位別の死亡者数2位との結果が出ています。
また、2017年1年間に人口10万人あたり何人死亡するかを示すがん死亡率では、がん全体では男性363.2、女性239.1となっています。
そのうち肺がんのがん死亡率では、男性が87.4、女性が33.0と特に男性の死亡率の高さが際立っています。

2017年のがんによる死亡数が多い部位
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/死亡データ(2017年)」をもとに作成

患者数については、2014年に新たにがんと診断された、男性501,527人、女性365,881人、計867,408人のうち、肺がんと診断されたのは、男性では76,879人(2位)、女性では35,739人(4位)となっています。

2014年の罹患数が多い部位
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/罹患データ(2014年)」をもとに作成

男女別の部位別がん罹患数(2014年)第5位まで
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成

年齢による患者数の変化については、男性では、40歳以上では消化器系のがんの罹患が多くを占めていますが、70歳以上になると消化器がんの割合は低くなり、その代わりに肺がんや前立腺がんの割合が高くなります。
女性では、40歳代では乳がん、子宮がん、卵巣がんの罹患が多くを占めていますが、年齢が高くなるほどこれらの割合は減少傾向となります。その代わりに消化器がんや肺がんの割合が増えてきます。

年齢階級別 肺がん罹患数(2014年)
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計/地域がん登録全国合計によるがん罹患データ(2014年)」をもとに作成

肺がん検診の対象

●肺がん検診の対象年齢と頻度

肺がん検診ガイドラインでは、肺がん検診は、40歳以上になったら年に1回の受診が推奨されています。
肺がんの患者数が急に増えるのは60歳代以上です。しかし、2014年に肺がんと診断された人数を年齢別に見ていくと、30歳代後半では300人くらいですが、40歳代後半で1400人以上となり、50歳代前半で2600人を超えています。つまり、40歳前後は肺がん患者数が増え始める年代といえます(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」より)。

がん検診の目的としては、「がんを見つけること」もありますが、「検診によりがんを早期に発見し、適切な治療につなげることで、がんによる死亡数を減らすこと」にあります。この目的に沿ってさまざまな研究が行われた結果、40歳~79歳の男女に対する2種類の検診方法(後述します)は、肺がんによる死亡数を減らす効果を示す根拠があるとされており、肺がん検診の対象年齢は40歳以上となっています。

指針で定めるがん検診の対象
厚生労働省「がん検診」をもとに作成

肺がん検診の流れ

肺がん検診の流れ

●検診の方法

肺がん検診の対象年齢(40歳以上)になると、お住まいの自治体あるいは勤務先企業が加入している健康保険組合から「肺がん検診のお知らせ」などが届きます。勤務先での一般的な健康診断に追加する形で受けられることがありますが、それが難しい場合には、お住まいの自治体が行う肺がん検診を受けましょう。自治体が行う検診可能期間から外れてしまった、勤務先での健康診断と併せての受診が出来なかった場合などでも、肺がん検診が可能な医療機関であれば、自費で受けることができます。

まずは、手元に届いた「肺がん検診のお知らせ」などに記載されている方法に従い、検査を受けることができる医療機関に、検診受診日時を予約します。
肺がん検診の当日は、受付を済ませ、看護師などから問診票の内容についての確認があります。一般的な健康診断のオプションとして肺がん検診を受ける場合は、最後の「医師からの説明」の際に、再び肺がん検診としての「問診」があります。

肺がん検診は、大きく2つの検査(胸部X線検査、喀痰細胞診)を受けることになりますが、検診そのものはおよそ1~2時間程度で終わります。

●精密検査

肺がん検診の結果は多くの場合、その場では判定が出ません。受診した医療機関等にもよりますが、およそ1週間~1か月後くらいに、検診結果が自宅へ郵送されてくることが多いようです。
肺がん検診の結果、「異常あり」という結果が届いたら、必ず精密検査を受けましょう。がん検診は一次的なスクリーニング検査であり、健康な人を対象にしています。例えば、咳が止まらない(長い期間続く)、血痰が出た、あるいは胸痛や呼吸困難を感じることがあるような場合は、がん検診の結果を待つのではなく、医療機関を受診しましょう。

がん検診の結果としての「精密検査」は、二次検査とも呼ばれています。これは、肺がん検診の結果「異常あり」となった場合に、さらに詳しく調べてがんがあるかを確認する検査です。肺がんの早期発見・早期治療につなげていく大事な検査ですので、「異常あり」と判断された場合は、精密検査を受けるようにしましょう。
また、肺がん検診で「異常なし」という判定だった方は、ひとまずは安心できますが、次回(1年後)の肺がん検診を受けるようにしましょう。

がん検診の流れ

検査方法

検査方法

肺がん検診の検査項目としては、「問診」と「胸部X線検査」、「喀痰細胞診」の3つの検査があります。

●問診

問診としては、おおよそ以下の質問に答えることが多いようです。

  • 喫煙の有無、1日の喫煙本数、喫煙年数
    →ただし、過去の喫煙者も過去の状況を記述する
  • 直近半年程度の間に血痰があったかどうか
  • 過去の肺がん検診受診歴、喀痰検査歴等
  • 親族等でがんに罹患した人がいるか
  • 喀痰検査の希望

中でも、喫煙の状況として、1日の喫煙本数と喫煙年数については、喀痰検査の対象となるかどうかを判断するために必要な情報ですので、正しく回答しましょう。

●胸部X線検査

肺がん検診における胸部X線検査は、受診者全員が対象となります。この検査は、いわゆる「胸部レントゲン撮影」です。前日からの食事や水分の制限はありません。一般的な健康診断と併せて受診する場合はその限りではありませんが、肺がん検診のみを受けるような場合は、食事や水分はいつも通りとってからの受診でも良いとされていることもあります。

肺がん検診における胸部X線検査の効果としては、感度(肺がんがある場合、検査結果が陽性となる確率)は60~80%程度、特異度は95%以上とされており、がん検診の目的を考慮すると、有効性が高い検査といえます。人体への影響は極めて少ないとは考えられますが、少なからずX線の照射を受ける(被ばくする)ことになります。

肺がんには、発生部位から見ると大きく2つのタイプがあります。一つは「中心型(肺門部)肺がん」と呼ばれ、肺の中心部の気管支に発生し、喫煙との関連が深いがんです。もう一つは「末梢型(肺野部)肺がん」と呼ばれ、肺の末梢に発生し、喫煙との関連が薄いがんです。胸部X線検査は、いずれのタイプのがんに対しても必要とされる検査です。

●喀痰細胞診

喀痰細胞診は肺がん検診の上で必須な検査ではありません。肺がん検診では胸部X線検査は必須ですが、ハイリスクな方のみに喀痰細胞診が必要となります。
肺がんにとって一番ハイリスクとなるのは喫煙ですが、これまでに喫煙歴が全くない方は、喀痰細胞診の対象とはなりません。喀痰細胞診の対象となるのは、喫煙指数が400ないし600以上の方という基準があります。喫煙指数とは、次の式で求めることができます。

喫煙指数 = 1日に吸うタバコの平均本数 × 喫煙年数

例えば、1日に20本のタバコを吸う人が、20年間に渡って喫煙していた場合、20×20=400となりますので、「ハイリスクな人」となります。30年間なら喫煙指数は600です。今現在は禁煙していたとしても、過去の喫煙歴から計算されます。

喀痰細胞診が必要な方と不要な方がいる理由は、肺がんができる部位の違いにあります。前述の通り、肺がんの出来る部位は大きく2つのタイプがあり、このうち喫煙との関連が深い「中心型(肺門部)肺がん」は、喫煙経験の無い人に発生することが少ないためです。

喀痰細胞診は、3日間に渡って喀痰を自分で採取し、この検体を顕微鏡で見ながら、がん細胞が含まれているかどうかを調べる検査です。基本的には3日間の早朝喀痰(朝起きたときの喀痰)を採取する必要がありますが、上手く採取できなかった場合の対処法についても、予め確認しておきましょう。

喀痰細胞診の効果としては、特異度は95%以上ですが、感度は25~78%なので、かなりのバラつきがあります。基本的には胸部X線検査と併用して行われることと、実際にその効果を調べる研究がまだ少ないことが、バラつきの出る原因と考えられています。

精密検査

精密検査

肺がん検診の精密検査が必要な人は、胸部X線検査(人によっては喀痰細胞診も併用)を受けた人のうち、およそ3%が該当するといわれています。精密検査では「疑わしい病変」がある部位について、詳しく調べます。

●胸部CT検査

専用の検査機器から発生するX線を照射し、そこから得た情報を画像化し体の断面の状況を調べる検査です。肺の末梢にあるような小さながんでも見つけることができるため、胸部X線検査では見つけられないような早期の肺がんでも見つけることができます。
ただし、肺がんと診断するのが難しいような、ごく小さな結節(けっせつ=組織の固まり)を見つけてしまうことがあり、その場合は経過観察が必要になることもあります。また、少量とはいえX線を照射するため、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は、基本的には検査を受けることが出来ません。

●気管支鏡検査

気管支や肺の病変を探す内視鏡検査です。胃内視鏡よりも細く(3~6㎜程度)て短い、専用の機器を使用します。気管支を内側から観察し、場合によっては一部の組織を採取したり(経気管支肺生検)、気管支の粘膜を専用のブラシでこすって検体を採取します(細胞診)。
ただし検査中は息苦しさを感じることがあり、ほかにも出血、検査後の発熱、気胸、麻酔薬によるアレルギー反応などの副反応がみられることがあります。

肺がん検診の費用

自治体や健康保険組合が行う肺がん検診は、検診費用の助成があるため、数百円~2,000円程度で受けることができます。実際の費用については、自治体などにより違いがありますので、詳しいことは自治体や健康保険組合からの「検診のお知らせ」などで確認しましょう。
ただし、精密検査(二次検査)が必要な場合は、医療機関などで検査を受けることになり、自己負担(保険診療)が必要となります。

まとめ

肺がんは、がんによる死亡原因のうち、女性は第2位ですが、男性は第1位、男女合わせると死因第1位のがんです。日本人の死因全体でも見ても、がんは死因の第1位ですから、肺がんで亡くなる方が非常に多いことが分かります。罹患数では、女性は乳がん、大腸がん、胃がんに続く第4位ですが、男性では胃がん続く第2位です。
肺がんは、初期には自覚症状がほとんど無いため、定期的にがん検診を受けることにより、早期発見、早期治療につなげていくことが必要です。
40歳を過ぎたら、年に1回は肺がん検診を受けるようにしましょう。

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